配偶者居住権は本当に「得」なのか?

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「配偶者居住権を使えば相続税が安くなる」——そんな話を耳にしたことはありませんか? 2018年の民法改正(2020年4月施行)で登場したこの制度、確かに使い方次第では大きな節税効果が期待できます。しかし「とりあえず配偶者居住権を設定しよう」と安易に判断すると、後から思わぬデメリットに直面することも。このコラムでは、得か損かをフラットに整理します。

■配偶者居住権とは? ── 2分で理解できる基本

配偶者居住権とは、夫(または妻)が亡くなった後も、残された配偶者が「その自宅に住み続ける権利」を法的に保障する制度です。2018年に民法が改正され、2020年4月から施行されました。

▍ 従来の問題点

改正前は、「自宅を相続した配偶者が生活費を確保できない」というケースが頻発していました。たとえば、夫が自宅(評価額3,000万円)と預貯金1,000万円を残して亡くなり、法定相続分(1/2ずつ)で子と分けると、妻は自宅を取得できても手元に現金がほとんど残らない——そんな事態です。

▍ 配偶者居住権の仕組み

この制度では、自宅を「住む権利(配偶者居住権)」と「建物の所有権(負担付き所有権)」に分けて相続します。

  • 配偶者 → 配偶者居住権(住み続ける権利)を取得
  • 子など  → 所有権(ただし配偶者が存命中は自由に使えない)を取得

配偶者居住権は、配偶者が亡くなると自動的に消滅します。子はそのとき初めて「完全な所有権」を手にします。

💡 配偶者居住権は「終身」が原則ですが、遺産分割協議や遺言で存続期間を短くすることも可能です。

■メリット・デメリット一覧

まず全体像を表で確認しましょう。

メリットデメリット
✅ 住み慣れた自宅に住み続けられる⚠️ 売却・賃貸が自由にできない
✅ 生活費(現預金)も同時に確保できる⚠️ 所有者(子)との関係が複雑になる場合がある
✅ 配偶者控除を有効に活用できる⚠️ 再婚・施設入居でも権利が残り活用が難しくなる場合がある
✅ 配偶者の死後、子に税負担なく権利が移る⚠️ 一次・二次を合計すると必ずしも節税にならない場合もある

■メリットを深掘りする

① 住み慣れた自宅に住み続けられる

最大のメリットは、配偶者が相続後も住み慣れた家を離れなくて済む点です。子に所有権が渡っても「住む権利」は配偶者が保有しているため、追い出されることはありません。高齢になってからの引越しは身体的・精神的な負担が大きく、この安心感は金銭に換算しにくい価値があります。

② 生活費(現預金)も同時に確保できる

従来は「自宅 or 現金」の二択になりがちでした。配偶者居住権を使うと、自宅の価値を居住権と所有権に分けて相続できるため、配偶者が居住権を取りつつ、残りの現預金も手元に残しやすくなります。

【例】遺産:自宅3,000万円 + 預貯金1,000万円、法定相続分1/2ずつの場合

  • 改正前:妻が自宅全部を相続 → 現金ほぼゼロ
  • 改正後:妻が配偶者居住権(評価額1,500万円相当)+ 預貯金500万円を相続 → 手元に現金が残る

💡 居住権の評価額は、建物の固定資産税評価額・配偶者の年齢(平均余命)などをもとに算定します。

③ 相続税の節税効果

配偶者居住権を活用した節税効果の本質は、「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」を有効に使える点にあります。この控除は、配偶者が取得した財産のうち法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税がかからないという制度です。

配偶者居住権を設定することで、配偶者が取得する財産(居住権+現預金など)をこの控除枠内に収めながら、現金も確保するという設計が可能になります。

また、配偶者が亡くなると配偶者居住権は自動的に消滅します。このとき子の所有権は「完全な権利」に戻りますが、相続税も贈与税も発生しません。居住権の価値が税負担なく子に移ることが、二次相続対策として注目される理由のひとつです。

■ デメリットも正直に見ておく

① 自宅を自由に売れない・貸せない

配偶者が居住権を持っている間、所有者(子など)は自宅を自由に売却したり賃貸に出したりすることができません。処分には配偶者の同意が必要です。「将来的に不動産を現金化したい」「子が自宅を活用したい」といったニーズがある場合は、制度の利用を慎重に検討する必要があります。

💡 配偶者が施設に入居したり再婚したりした場合も、合意なく居住権を消滅させることはできません。自宅を活用したい場合は、配偶者との合意解除の手続きが必要になります。

② 家族間の関係が複雑になることがある

所有者と居住者が異なるため、建物の修繕費の負担や固定資産税の扱いをめぐって、子と配偶者の間でトラブルになるケースもあります。特に、所有者となる子と配偶者(継母・継父など)の間に血縁関係がない場合、費用負担の認識の違いから関係が悪化するリスクが高まります。

③ 一次・二次を合算すると必ずしも節税にならない

配偶者居住権が消滅しても、子の所有権に対して新たな相続税はかかりません。節税効果は主に「一次相続での税額を抑える」点にあります。

ただし、配偶者が一次相続で取得した現預金などは、配偶者が亡くなった際の二次相続で改めて課税対象になります。一次相続で配偶者控除を使って手元に残した現金が多ければ多いほど、二次相続の課税財産が増えるというトレードオフがあります。

「配偶者居住権を使ったほうが一次・二次を合算した相続税の総額が安くなるかどうか」は、家族構成・財産規模・相続人の状況によって異なります。

💡 相続税の節税効果は必ずしも保証されるものではありません。一次・二次相続を通じたシミュレーションを税理士に依頼することをお勧めします。

■ 「向いているケース」「向いていないケース」

配偶者居住権が活きやすい家族

  • 配偶者が高齢で、自宅に住み続けることを最優先にしたい
  • 遺産に占める不動産の割合が高く、現金が少ない
  • 子が自宅の売却や活用を急いでいない
  • 配偶者控除を最大限活用しつつ、現金も手元に残したい

慎重に検討すべき家族

  • 将来的に自宅の売却や賃貸活用を考えている
  • 所有者となる子と配偶者の間に血縁がなく、関係が良好でない
  • 配偶者の平均余命が短く、節税効果が限定的
  • 遺産が現金・金融資産中心で自宅の割合が低い

■まとめ ── 「得か損か」は家族ごとに異なる

配偶者居住権は、うまく活用すれば「住む場所の確保」と「一次相続の節税」を同時に実現できる強力な制度です。一方で、不動産の活用制約や家族間の利害調整、二次相続まで含めたトータルの税負担など、安易に設定すると後悔につながるリスクもあります。

大切なのは、「制度があるから使う」ではなく、「自分の家族にとって一次・二次相続を通じて本当に得かどうか」をシミュレーションしたうえで判断することです。

当事務所では、相続税シミュレーションや配偶者居住権の活用可否を含む、相続対策をご提案しています。まずはお気軽にご相談ください。

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